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救命医の経験をいかして在宅医療へ ー 医療の適正化への課題を解決したい

医療現場での葛藤

『やまと』に入職する前は宮城県仙台市と岩手県一関市で救急医として働いていました。当時は昼夜を問わず、緊急・重症患者の治療にあたっており、それにやりがいを感じていました。自分の中では危ないところを救命できたと思った症例でも「命は助かったけど、やりたいことができなくなった」という声がとても辛かったです。救急医療現場では人員が逼迫しており、日々、新しく搬送されてくる患者さんの治療をすることで精一杯でこのような声には応えることがなかなかできていませんでした。

そんな時に『やまと』で働いている医師に出会い、実際に在宅診療を見学する機会をもらい、障害や後遺症を抱えた患者さんをサポートしている在宅診療の場にこの課題を解決でき、自分が実現したい医療ができるかもしれないと可能性を感じました。また、『やまと』であれば救急医も続けながら、在宅診療も両立できるのも魅力のひとつでした。

目の前の命を繋ぐことだけが医療ではない

救急医として病院で働いていた時の話ですが、近年は高齢者救急が増えており、慢性期に入りご飯を食べることもできなくなった患者さんがいました。最期をどう過ごすかを決める段階で、ご家族は「家に帰らせてあげたい」と希望されていました。病状含め心配な点も多々あり医師としては正直家に帰ることを勧めたくない気持ちがありました。しかし、ご家族もリスクを承知のうえで「それでも帰らせてあげたい」と強く希望されたため、『やまと』に引き継いで在宅で診療していくことになりました。

その後、担当の医師から患者さんの様子を聞くと、元気に過ごされているようだったので、一度訪問診療に同行させていただくことに。すると、病院だと寝たきりでご飯も食べることができなかった患者さんが、ゼリー飲料をすごく美味しそうに飲んでいて、驚きを隠せませんでした。その時の、病院では見たことのない患者さんの笑顔と奥さんの満足げな表情は忘れられません。その光景を見た時に「この患者さんは家に帰って良かった」と強く感じました。

生命を優先するのであれば、誤嚥などのリスクを避け食事をさせないという選択肢を優先するかもしれませんが、患者さんの望む有意義な時間の使い方をサポートするのも医療の一つだと実感しました。これがまさに『やまと』が患者さんに提供している価値そのものだと思っています。

救急医だからこそできる在宅医療にこだわりたい

救急医療から『やまと』にきた理由のひとつとして、「不要・不急の救急搬送を減らしたい」という想いが根底にあります。日本は年々救急車の稼働台数が増加し、救急医療の現場が逼迫しています。

コロナ禍で特に顕著でしたが、病院の病床不足により緊急性のある患者が、いわゆる『たらい回し』に合う場面がありました。ひどい時は、病院の目の前で起きた交通事故を、近くの病院に搬送できず遠くの病院に運ばれるということも現実には起こっていました。

救急車を呼ばなくても在宅で対応できる疾患は在宅で治療を行い、また、「動けない」「病状が進行することで生活を維持することができない」などの、家族がどうしようもなくて救急車を呼んでしまうケースを未然に防ぐために、日々の診療を通して社会システムの利用や介護の相談に乗るようにしています。

救急医と在宅診療医の両者を経験し従事している私だからこそ、両方の現場を繋ぐパイプとして病院・在宅の医療の適正化への課題を解決したいと考えています。また、患者さんやご家族の求める医療を汲み取り、救急医と在宅医の両方の目線からの必要な医療提供、『本当に必要としている医療はなんなのか?』を一緒に考えることを心がけています。

望む最期を叶えられる社会にしたい

病院で働いていた時に入院患者さんからよく聞かれること、そして実際に『やまと』で働く中で、在宅診療を希望される患者さんに「家で何をしたいですか?」と聞くと、1番に挙げるのが「好きなものを食べたい」ということです。「病院では好きなものを食べさせてあげられないから退院させたい」と希望するご家族も多くいらっしゃいます。また、食べさせたかったものを食べさせることができて満足したというご家族の声も耳にします。

本当は「なんでも食べていいよ」と言ってあげたいのですが、医師として患者さんの病状や身体レベルを適正に評価して制限をかけなければならない場面もあります。

私は今、嚥下能力が下がった方でも食べることができる介護食を、製薬会社と開発するプロジェクトに挑戦しています。私は、患者さん用に多少のアレンジはしても、家族と同じものを囲んで食事することができるような食品の開発をしていきたいと考えています。

また、「温泉に行きたい」「桜を見に行きたい」などの希望はあるけれども、寝たきりだから、医療機器がついているからと諦めている患者さんのサポートをしていきたいと考えています。医療以外のことであっても志がある夢を応援してくれるのは『やまと』ならでは。

救急医として病院外での医療活動も行ってきましたので、その経験を活かして、終末期にいる患者さんであっても方法次第で叶えることができると提案していきたい。自宅で患者さんが望んだことの実現、患者さんやご家族がイメージする人生の最期を実現できる社会にして行くことが、今の私の目標です。医療以外のことであっても志がある夢を応援してくれるのは『やまと』ならではだと思います。