生まれ育った町をより良くする – 医療の枠を越えた挑戦
「広く深く総合的に診る」を目指し、在宅診療の道へ
1997年に医師となり、翌年から在宅診療に携わっています。研修医時代、指導医だった先生の「広く深く総合的に患者を診る」という診療スタイルに魅力を感じたことがきっかけでした。当時は病院付属の在宅専門の診療所があり、主に高齢者の診療を行っていました。外来で診ていた患者さんが病棟に移り、その後在宅診療になったとしても、どの場面でも自分が担当医として診ることができ、とてもやりがいを感じていました。
その後診療所勤務となり、外来・在宅診療を通じて0歳〜100歳超の幅広い年齢層の診療を行うようになりました。当時の診療所は私の指導医も在籍しており、多くの医学生・医師が研修に来る診療所でした。
ある時、一人の研修医と出会いました。彼女と私は、たまたま生まれ育った地元が近いことが判明。それをきっかけに自分の生まれ育った地域の医療体制を調べてみると、地域医療が不足しており、よりよくする余白が大いにあることを知りました。現状を目の当たりにした私は「生まれ育った町をより良くしたい」と強く思い、地元に帰ることを決意。「どうやって地域医療を行い、より良い町にしていけば良いのか?」を考え3年がかりで地元に戻る準備をしました。その中で肝心の働く場を探していた時に『やまと』理事長の田上先生と出会い、意気投合。『やまと』であれば在宅診療をしながら、地域をより良くする活動もできると思い入職を決意しました。
患者さんの「意思」を尊重し、命と生活を守り抜く
これまで、困難事例といわれる患者さんも積極的に診療してきました。その経験を通じて、患者さんの疾患だけを診るのではなく、看護師さんとケアマネージャーさんと協働して、経済的な背景や家族の状態、介護する力など、患者さんを取り巻くあらゆる問題を解決するのが自分の役割だと感じています。
私が大事にしていることは、患者さんご本人の「意思」を尊重し寄り添い、命と生活を守ること。独りでお住まいで目が離せない状況の患者さんでも、「病院ではなく在宅診療がいい」と強く希望される方もいます。そのような時には、ヘルパーさんや看護師さん医師の訪問回数を増やし、私自身も覚悟を決めチームで体制を整え対応することもあります。いざとなった時にヘルパーさんが慌てずに対応できるよう、日頃から関係性を築き、状況の共有を丁寧に行うようにしています。
患者さんの命と生活を守るためには、「広く深く総合的に診る」ことが必要不可欠です。ひとつの疾患を完璧にコントロールしたとしても、他の疾患が悪化してしまうこともあります。必要な管理と調整を行うためには、「患者さんが大事にされていることは何なのか?」を深く考える必要があります。在宅診療は、自宅に出向き、患者さんだけでなく取り巻く環境や家族と真向から向き合うことができるので、自分のやりたい医療の実現に近づいていると思います。
地域全体・全世代の医療面をサポート
在宅診療は高齢者の患者さんが中心ですが、「地域の様々な年代の人に関わりたい」という想いから、妊娠や子育てをサポートしているNPO法人の活動にも携わっています。
子育てサポート活動の一環で、「子育て」と「介護」を同時に担う方をサポートする「ダブルケアカフェ」に参加する機会がありました。偶然、患者さんのご家族の方が「ダブルケアカフェ」にいらっしゃったことがありました。その方は介護だけでなく、兄弟やお子さんとの関係にも悩んでいらっしゃったようで、普段の診療では聞くことがなかった内容をお話くださいました。
ご家族の心身の健康は、患者さんの生活の重要な一部。今後は、このような取り組みを診療所内でも開催し、患者さんだけでなく取り巻くご家族のケアにも積極的に取り組んでいきたいと考えています。
その他、地域で働く人の健康面のサポートや、災害発生時の医療体制を整える取り組みなど、地域の組織・医師会の活動を通じて、幅広い世代の健康に向き合う活動にも関わっています。在宅診療だけでなく、地域の様々な取り組みに参加でき、幅広い世代に関われるのは『やまと』だからできることだと強く感じます。
安心して暮らし、一生楽しく過ごせる町づくり
私のライフワークは「生まれ育ったこの町をより良くすること」です。今関わっている活動はすべてそこに通ずるもの。障害を抱えたり認知症を含め他者からのサポートが必要な病気になったりした時に、悲しみのどん底に陥るのではなく、「ここにいたら幸せでいられる」と思う人を増やしていきたい。
これまでも、無料健康相談会などを開催し、健康面や病状に悩みがある人をサポートする取り組みを進めてきました。ニーズはあるはずですが、今のところ利用者は少な目。これからは、勉強会や講演会なども開催して、地域の方々と顔が見える関係を築き、気軽に相談してもらえる機会を増やしていきたいと思っています。
安心して暮らし、一生楽しく過ごせる町。実現のためには様々な制度を整える必要がありますが、私は医療はもちろんのこと、様々な側面から寄与していきたい。実現のためには多くのハードルがあるかもしれませんが、これからも諦めずに前向きに尽力していきます。