点と点を繋ぎ、地域医療を”面”にしたい
公衆衛生の研究から在宅診療へ
『やまと』に入職する前は、国内外をフィールドに、公衆衛生や疫学の研究に取り組んでいました。一人ひとりの単位ではなく、集団や地域の単位で「疾病の発症や進み具合に影響する因子は何なのか?」「予防するにはどんな取り組みが必要か?」などのテーマで研究をしていました。学生時代にバックパッカーや国際協力のプログラムを経験しました。国の衛生環境や制度によって同じ病気であっても治療ができない、健康にも格差があるという現実を目の当たりにしたのが公衆衛生に興味を持ったきっかけです。大学院進学後は研究の傍ら診療にも携わるようになり、病室や外来を出た患者さんが、その後、どのような生活を送っているのか常に気になっていました。自分の家族の介護と看取りも経験し、研究が落ちついたタイミングで「地元に戻り一対一でじっくり患者さんに向き合いたい」という思いが強くなり、転職を決意。そんな折に『やまと』に出会いました。
『やまと』であれば、これまでのキャリアを活かしながら、フレキシブルな勤務形態でライフスタイルを保つことができる。さらに、多様な経験を持つ医師たちから様々な指導を受け、学び続けることもできる。他にはない魅力を感じて入職しました。実際に今、診療以外で興味のある社会活動への参加や、大学での講義なども行うことができています。やりたい事を最大限に受け入れてくれるのは『やまと』ならではだと思います。

患者さんのライフストーリーに寄り添う
日々の診療において、患者さんやご家族がその病気や症状に対してどのような考えを抱いているか理解することを大切にしています。病気や症状が生活にどのように影響しているかは人それぞれです。在宅診療は自宅に伺うので、何気ない会話やご自宅の様子からヒントを得ることも多くあります。「昔はどんな仕事をしていたか」「どんなことが好きだったのか」などライフヒストリーを伺い、一人の人としてのその方を知りたいと思っています。
ある時、地域の病院から紹介された患者さんがいました。その方はある芸事に親しんでいて、芸名にちなんだ戒名もすでに作られているような、ご自身の生き方を貫いた方でした。「自宅にいたい」「家で気ままに過ごしたい」という強い思いをお持ちで紹介を受けたのですが、病院の担当医の先生を非常に慕われていたんですね。そこで、その先生と連携し、訪問診療時にサプライズで患者さんのもとにお連れしたところ、泣いて喜んでくれました。そのとき一緒に撮った写真をベッドの脇に飾り「これで先生といつも一緒だ」と。患者さん一人ひとりが何を望んでいるのかを模索し、診療以外のことであっても叶えられるようにチームで手をつくすことができるのは、在宅診療ならではだと思います。

人と人を繋ぎ、セーフティーネットを広く厚く
在宅診療は地域の多職種の方が関わり合って成り立っていると日々、感じています。私の役割は、それぞれの良さを出し合える環境や仕掛けを作り、診療も地域全体もより良くしていくこと。初めは関わるみなさんが遠慮されたり緊張されたりする場面もありましたが、対等な立場で互いを尊重するような、密なコミュニケーションを心掛けています。普段書面でのやり取りが多い分、実際にお会いしてお話しすることも大切にしています。地域の方にお声がけいただく機会があれば、場所や会の大小に関わらずフットワークを軽く、足を運びます。そうすることで地域での繋がりも強くなり、患者さんへの手厚いサポートを実現できると思います。
地域で在宅診療を行っていくなかで、人と人を繋ぐことは非常に重要です。患者さんやご家族のお困りごとを聞いた時に、自分にできることは力を尽くしますし、どなたかの手を借りた方が良い時には頼れる人を探します。リハビリや制度の紹介、病院の先生との連携、介護疲れへの対応など、その時々に応じてできる限りの最適解を提案して一緒に考える。時には、区長さんや民生委員さんなど、地域の方たちにお声かけをし、見守り体制を作ることもあります。
多職種の方が点と点でいる地域に自分とチームが介入することで、それが線や面になり、患者さんを取り巻くセーフティーネットが広がり厚くなる。それが『やまと』で実現できる「地域に根ざした在宅医療」だと思います。今後も地域の一員として、その人らしく安心して過ごせる地域づくり、医療の提供を目指します。
